社会派ブロガー・ちきりん氏のVoicy(音声メディア)に
「仕事の価値は報酬額とは違う」
という回がありました。下記は価値と報酬額に関する部分の引用です。
報酬っていうのは、キャッシュっていうのは、その仕事固有の値段なんですよね。
中略
ちきりん of Voicy『2021/2/21 #139 仕事の価値は報酬額とは違う』
価値っていうのは、特定の人の、特定の立場の、特定のタイミングにおいて、どれくらいの価値が高いか低いっていうことが決まるんですけど、人によって違うんですよね。
たしかに、その通りだと思います。
また、ちきりん氏は価値を見抜くためには「マーケット感覚」が大事だと語っています。
ちきりん氏は『マーケット感覚を身につけよう』という本を書いているので、「この本を買ってね、読んでね」という間接的な宣伝の意味もこめているのでしょう。
僕は『マーケット感覚を身につけよう』は既に読んでおり(良書です!)、「その本を読んでください、はいおしまい」ではおもしろくないので、この記事では違う観点で考えてみました。
お金以外の価値を考えるためのアプローチには、次の2つがあるのではということです。
- ゴール・目標型:ゴールや目標から逆算した価値を考えるパターン
- プロセス型:ゴールや目標ではなく、プロセスそのものに価値を置くパターン
前提や背景も書いていますので、読みたい箇所から読んでください。
ちきりん氏のVoicyを聴いてから読むと、より読みやすいかもしれません。
ちきりん氏の主張「報酬額ではなく自分にとっての価値で決める」
本題の前に、ちきりん氏のVoicyについてもう少しおさらいです。
Voicyは、PC・スマートフォン向けの音声配信サービスです。
ちきりん氏は仕事を報酬額だけで決めないと語ります。その例え話として、次の2つを説明しています。
A:半藤一利さんの追悼本への寄稿文 3万円
B:ちきりんブログのバナー広告 30万円/1ヶ月
半藤一利氏は昭和史などの著書で有名な「昭和史研究家」の大御所です。半藤氏は2021年1月に亡くなり、文藝春秋社から追悼本が出版されることになりました。
ちきりん氏は追悼本への寄稿文を依頼され、その原稿料を3万円と「仮定」して話されています。この記事ではAとします。
一方で、ちきりん氏には「ブログに広告を貼って欲しい」というオファーがよく届きます。
なぜなら、人気ブログでPV数も相当高いため、そこに広告を貼って儲けたい企業がオファーしているからです。
ちきりん氏はVoicyの中で、「1ヶ月コンテンツの前に広告を貼って30万円のオファー」があったと仮定しています。この記事ではBとします。
この2つを比べると、ちきりん氏にとっては「Aの方が価値が高い」と言います。Bの方が報酬額が高く、楽で簡単(ブログに貼るだけ)であるにも関わらずです。
A:半藤一利さんの追悼文に寄稿 3万円 > B:1ヶ月ちきりんブログのバナー広告30万円
*詳しくはVoicyで聴いてください
ちきりん of Voicy『2021/2/21 #139 仕事の価値は報酬額とは違う』
その理由は何でしょうか。
直接は言っていませんでしたが、Aは信用補強ができるというニュアンスで伝えていました。信用補強というのは、Aに寄稿することで、ちきりん氏の信用が高まるということです。
というのも、Aのムック本に寄稿しているのは以下のようなビッグネームの方ばかりであるためです。
寄稿した方々
- 佐藤優氏
- 宮部みゆき氏
- 阿川佐和子氏
- 池上彰氏
- etc
この方々と並列で記載されるちきりん氏も同様に、読者から「信用がある人物だ」とみなされるためです。
つまり、ちきりん氏が仕事を受ける際には「報酬額(=価格)ではなく、価値を見抜いて」から、受けるかどうかを判断しているということです。
一つ一つの仕事は「価格ではなく、自分にとっての価値(または事業や会社の価値)」を見抜くことが重要ということでしょう。
高く評価してくれる市場とは経済的に評価してくれる市場のことなのか
マーケット感覚はビジネスとして大事な感覚
ちきりん氏は価値を見抜くには「マーケット感覚」が大切だと説明しています。マーケット感覚について、ちきりん氏のブログで次のように述べています。
マーケット感覚とは、「潜在的な価値に気が付く能力であり、それを高く評価してくれる市場を見つける能力」
ちきりんの日記『マーケット感覚は価値の認識から』
たしかに、これはそうでしょう。潜在的な価値に気がつく能力があり、それを高く評価してくれる市場を見つけてマッチングすることができれば、ビジネス・仕事になるからです。
そこで価値の交換が生まれれば、必然的にお金が発生します。
でもマーケット感覚でいう「高く評価してくれる市場を見つける能力」の指標として、「お金だけ」を組み入れるだけでいいのでしょうか。
別の言い方をすると、「高く売れる市場だけを見つけるためだけに血眼になるのはどうなのだろうか」ということです。
もちろん、ビジネス・仕事として「お金になる」ということは良いことです。
なぜなら、誰かに価値を提供していることになるためです。でも、それ「だけ」だと味気ないなと感じます。
例えばちきりん氏は、ブログの広告収入よりも報酬の少ない仕事を選びました。信用を得るために、文藝春秋社の原稿の方に価値があると判断したのです。
信用を大事にすることは経済的な利益のためだけなのか
ではなぜちきりん氏は信用補強したいのでしょうか。
それはおそらく、ちきりん氏が本やブログ、Voicyというコンテンツを持っており、読者から信用を得てコンテンツを売りたいからだと推測できます。
結局は「即金性を意識しないだけで、将来的な金を見据えている」ように思えます。
これはビジネスマンとしてあるべき姿でしょう。信用補強の意図を考えてみてください。信用があるからコンテンツが売れ、将来的にそれが「経済的な価値=お金」の最大化になります。
この「信用→お金」の原理を、ちきりん氏も分かっているはずです。
でも、時間軸を長期的に考えただけで、将来的に儲かることだけが大事なのでしょうか。
とはいえ、ちきりん氏が「経済的な価値=お金」のため「だけ」に価値をおいているかというと、そうではないでしょう。
おそらく次のような欲があるからだと推測します。
- 影響力をもち、自分の考えを世界に知ってほしい
- 対象読者の生活や仕事をより良くしたい
良い表現で言えば「ビジョン」や「目指す姿」、「コンセプト」のようなことです。
ここでいう「経済的な価値(お金)以外の価値」は何なのかでしょうか。
例えば会社や事業者であれば「○○はやらない」というポリシーがその一つになります。またはビジョンやゴールです。
これらのポリシーやビジョンがないと、「儲かっていそうなのに評判が悪い会社」「業界内で孤立してしまう人」になる恐れがあるでしょう。ビジネスであれば、最終的にはユーザーに嫌われてしまうかもしれません。
しかも今の時代は「モノ消費よりコト消費」へニーズが高まっています。
モノやサービスの機能的な価値よりも、それに付随するストーリーや想い、社会的な意義に着目する人も増えている事実があります。
つまり言いたいことは、「将来的に稼げる額の最大化だけを価値にしたいのか、それ以外の価値も大切にしたいのかを考えることが重要ではないか」ということです。
お金以外の価値を考えるための2つのアプローチ
お金以外の価値を考えるためのパターンは、次の2つがあるのではないでしょうか。僕なりの分類を説明します。
- ゴール・目標型:ゴールや目標から逆算した価値を考えるパターン
- プロセス型:ゴールや目標ではなく、プロセスそのものに価値を置くパターン
ゴール・目標型:ゴールや目標から逆算した価値を考えるパターン
将来的に成し遂げたい成果や結果があって、そこから逆算して考えるパターンです。
例えば影響力をもって、「業界や組織を変えたい、自分の世界観を共有したい」などです。
目の前の報酬額ではなく、その仕事が将来に実現したいことに繋がるかが判断基準になるでしょう。
プロセス型:ゴールや目標ではなく、プロセスそのものに価値を置くパターン
美学やポリシーなどを意識するパターンです。
「〇〇はしない」「××のみ実行する」という姿勢を貫く。これがブランディングになり、その姿勢そのものを伝えたい場合です。
こちらは将来的に成果が欲しいというよりも、「プロセス・過程として大事にしたい価値観や倫理観」があります。
例えば、「他人を真似しないこと」や「こういう条件でしかやらない」などです。
永ちゃんこと矢沢永吉氏の名言「俺はいいけどYAZAWAがなんて言うかな?」はその典型だと思います。
参考:ニッポン放送 NEWS ONLINE『「ボクはいいんだけど、YAZAWAがなんて言うかな?」矢沢永吉が言ったその意味は?』
この言葉は「○○だったら××はしないだろう」という価値観や世界観を体現している最たる例でしょう。
まとめに代えて:価格ではなく価値を見抜くためのヒント
まとめに代えて、具体的に価値を見抜くためのヒントを2つまとめました。注意事項も載せます。
ヒント①中長期的な価値を考える
ヒントの1つ目は、仕事を受けた時に「時間軸」をいれて考えることです。
例えば、中長期的な視点を持つことになります。具体的には3年後や5年後、10年後など、少なくとも年単位で「どういう価値をもたらすか」を考えると良いのではないでしょうか。
直近だけで考えれば、目の前の報酬額の方が大事に見えるかもしれません。
しかし、時間軸をいれて考えることで、そうではないことが分かることがあります。「損して得取れ」という言葉はこのパターンでしょう。
ヒント②お金以外の価値は何かを意識する
仕事を受ける時に、「報酬額以外の価値」を考えると、何が自分の価値かがはっきりするのではないでしょうか。これが2つ目です。
報酬額以外の価値には、例えば下記のようなことがあるでしょう。
- 信用が得られる
- 自分のスキルが高まる
- 気持ち的に楽しい・やりがいがある
- 実績になってアピールになる
- etc
このような「報酬額以外の価値」は、意識して考えないと認識すること自体が難しいです。
なぜなら、資本主義でビジネス・仕事をしている以上、目の前のお金が第一になりやすいからです。
「報酬額以外の価値」のパターンでは、この記事は以下の2つを紹介しました。
*クリックで該当箇所に戻れます。
注意:状況や立場によって将来価値よりも目の前のお金が大事な場合もある
でも「報酬額(=お金)以外の価値」は、その人の立場や状況によって意味合いが変わります。
今すぐお金がないと生活が苦しい、生活していけないような人は、将来のお金より目の前のお金の方が圧倒的に大事です。
駆け出しのベンチャー企業もそうかもしれません。資金繰りをなんとかしないと、黒字でも倒産してしまいます。
僕はサラリーマンなので、毎日暮らしていく分にはお金は困りません(将来的な不安はありますが)。だからこそ、少し長いスパンで価値を考えられる機会があります。
もちろん、「価値を長期的に考える」「経済的以外の価値を考える」ということは大事です。
でも、状況によって、「目の前のお金の価値=重み」が変わるので、「柔軟に考えましょう」ということです。
この点は、記事冒頭で紹介したちきりん氏の言葉そのものです。
報酬っていうのは、キャッシュっていうのは、その仕事固有の値段なんですよね。
中略
ちきりん of Voicy『2021/2/21 #139 仕事の価値は報酬額とは違う』
価値っていうのは、特定の人の、特定の立場の、特定のタイミングにおいて、どれくらいの価値が高いか低いっていうことが決まるんですけど、人によって違うんですよね。
この「特定の人の特定の立場の特定のタイミングにおいて」というのは、状況によって変わるということです。
まとめのまとめ
最後にまとめのまとめです。
・報酬額(=価格)ではなく、価値を見抜いて仕事を判断することが大事
・お金以外の価値も考えることで、ポリシーや目指す姿を見つめ直せる
・ただし、その価値は状況や人によって違うので、一元的ではなく、その時その時で吟味することも忘れずに
企業や個人でポリシーや流儀があれば、それに照らし合わせて「価値」を考えていきましょう!
参考書籍
ちきりん氏についての別記事
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