「あなたは常識人間を捨てられるか」
この言葉をいきなり誰かに言われたらビックリするでしょう。
なぜなら、自分は常識人間だと思いたくないですし、なぜ捨てなければならないかも不明だからです。
しかし、今回紹介する本の著者「岡本太郎さん」から言われたとすれば、納得し、考えさせられるでしょう。
というのも、岡本太郎さんは日本代表する芸術家であり、その彼の答えが「自分の中に毒を持て」という本に詰まっているからです。
岡本 太郎 (2017)『自分の中に毒を持て<新装版>』青春出版社
この記事では、日本を代表する芸術家である岡本太郎さんの著書「自分の中に毒を持て」に焦点を当てます。
概要や名言を紹介しつつ、私なりの感想や考察を共有させていただきます。
- 「自分の中に毒を持て」の概要
- 「自分の中に毒を持て」の感想
- 「自分の中に毒を持て」の名言8選
- 「自分の中に毒を持て」の考察4つ
「芸術は爆発だ」の名言や、「太陽の塔」など、数々の作品を世に送りだしてきた岡本太郎さん。
実は、「常識人間とは何か」という問いの答えを直接的に答えていません。おそらく「自分で考えろ!」ということでしょう。
この記事が岡本太郎さん(以下、岡本太郎)や本書を考える一助となれば幸いです。
あなたなりの「常識人間を捨てるとは何か」を考えながら読んでください!
「自分の中に毒を持て」の概要
芸術家・岡本太郎の熱いメッセージが込められている本です。
岡本太郎とは
岡本太郎は日本を代表する芸術家です。
1911年、東京生まれ。洋画家。パリ大学卒業。1996年没。
在学中、ピカソの作品に衝撃を受け、抽象芸術運動に参加。帰国後、前衛的な作品を次々に発表、国内はもとより国際的にも高い評価を受ける。
BOOK著者紹介情報より(一部改変)
大阪万国博の「太陽の塔」の創作や、「芸術は爆発だ!」の言葉が有名です。
本の概要
本書は1993年に初版が発売され、2017年に新装版として再発売されました。
内容は、以下のテーマについて、岡本太郎が人生を振り返りながら語っていくというものです。
- 生き方
- 自分との向き合い方
- 人間関係とは
- 芸術とは
独自の視点で述べられており、読むことに飽きません。また、その熱量に圧倒されることもあるでしょう。
特徴的な点はメッセージが強烈であることです。
自分を殺す、そこから自分が強烈に生きるわけだ。
自分を大事にしようとするから、逆に生きがいを失ってしまうのだ。
など、心に響く言葉の数々が散りばめられています。
あなたは本気で生きているのか。
そんなことを問いかけつつ、私達の人生を力強く後押ししてくれる一冊です。
「自分の中に毒を持て」の感想
「丸ごと一冊が名言集のようなものである」。
私はこの本をこのように評したいと思います。
なぜなら、本書のどの文章をとり挙げたとしても、「名言」と呼ばれてもおかしくないような心を揺さぶるメッセージがあるからです。
私がこの本を初めて読んだのは大学生の時でした。強い衝撃を受けたことを今でも覚えています。「大学生のうちにやりたいことをやるんだ」という意志が芽生え、海外に行くことや、ボランティアに携わることを後押ししてくれた本です。
今回読み直してみると、かなりの時間がかかりました。というのも、読むたびに立ち止まって考えさせられたからです。自分は本当に常識人間として生きてしまっていないかと。
正直、常識人間になりつつあると感じます。だからこそ、今日から自分の中に常識人間と戦いつつ、日々生きたいなと感じました。
この記事では、自分の中の「常識人間と戦う、考える」という意味も込めて、本書の考察を試みました。
「自分の中に毒を持て」の名言8選
感想で述べたように、本書は「丸ごと一冊が名言集のようなものである」と思います。
その中でも、特に印象に残った名言を8つ紹介します。
正直なところ、8つだけでは足りません。しかし、なるべく多様なジャンルが入るように選びました。
繰り返しますが、この本はどの箇所をとっても名言ばかりです。今回紹介する名言は、管理人が選んだ言葉にすぎません。
ぜひ本書を手にとり、「あなたにとっての名言」を見つけてください。
今回は一例としてお読みいただけますと幸いです。
名言① 死に対面する以外の生はないのだ。
第1章より
18歳でパリにきた岡本太郎は美を追及する一方で、自身の生き方を問いはじめるようになります。
その後日々生きる中で生まれたのがこの言葉です。「生命それ自体が完全燃焼するような生に賭けるべきではないか」とも語っています。
名言② 切実にぶつかるのは己自身だ。己が最大の味方であり、また敵なのである。
第1章より
岡本太郎は「命を賭けて生きよ」と本書で述べいます。その時にぶつかるのは「己自身」だと。
社会やまわりと闘うのではなく、まずは自分自身と闘えということですね。
名言③ いのちがけの「遊び」と、甘えた「お遊び」とは、まったく違うのである。
第1章より
仕事や芸術だけに本気になるのはおかしい。それが岡本太郎でした。
遊びにも「いのちがけ」で臨み、「全生命、全存在を賭けて、真剣に、猛烈に遊ぶのでなければ、生命は燃えあがらない。」と説いています。
名言④ 相手の中から引き出す自分それが愛
第3章より
この言葉は本文ではなく、「第三章のタイトル」そのものです。この章そのもので、この言葉の真意を説いています。
恋多き男でもあった岡本太郎は「多くの人との出会いによって、人間は”他人”を発見する。」という極意を語っています。
名言⑤ 独自に生きたくても、現実にむずかしいというかもしれないが、その矛盾と闘わなければ駄目なんだ。
第2章より
独自に自分の道を進んだ場合、食えないかもしれない。そんな人に対しての太郎の言葉です。
例え食べていけないとしても、自分をごかましてはいけないという主張です。
ここでも「闘う」という言葉がキーワードになっていますね!
名言⑥ 世界中の子供はみんな自分の息子だ、世界中の親はみんな自分の親だ、そういう大らかな気持ちを持ちたいと思う。
第3章より
自分の息子や娘、自分の親、自分の家族だけよければいいという考えをバッサリ切った言葉です。
岡本太郎はそのような考えを「つまらない生き方」だと主張しています。
そうではなく、「自分の子供だけではなく世界中の子供達の幸せを考える、世界中の大人や親の幸せにつながるように行動せよ。」と言っているように思えます。
名言⑦ “芸術は爆発だ”
第4章より
これは岡本太郎のキャッチフレーズともいえる有名な言葉です。
でも、この言葉に込めた岡本太郎の意味を誤解している人は多いようです。
こちらについては、この後の「考察2「芸術は爆発だ」の真意とイメージの図解」で詳しく書いています。
名言⑧ 瞬間瞬間の「危険に賭ける」のが真の人間のあり方だと思うのだ。
第2章より
本書のまとめと言っていいような、太郎の想いが詰まった一言です。
危険にかけ、本気で生きようとすればするほど社会からの反発は大きいでしょう。
しかし、あえて「瞬間瞬間の危険に賭ける」ことで、人間として輝くと岡本太郎は語っています。
考察1 毒はどこに吐くのか?常識人間を捨てるとは
ここから考察をしていきます。
1つ目に考えるテーマは、「自分の中に毒を持て」の毒はどこに吐くのかという点です。
岡本太郎といえば、社会に迎合せずに生きたという印象があるでしょう。そういう意味では、この毒を「社会」に向けて吐くと捉えてもいいかもしれません。
しかし、岡本太郎の真意は違います。
その真意とは、
毒は社会ではなく自分に対して吐くべきだ
ということです。
なぜなら、様々な言い回しで
己と戦え!
という主張を繰り返しているからです。
例えば
いのちを賭けて運命と対決するのだ。そのとき、切実にぶつかるのは己自身だ。己が最大の味方であり、また敵なのである。
第1章より
と語っています。
このように、「敵となる自分を毒で殺せ」と主張しているように読みとれます。
でも、ここで一つ疑問が浮かびます。それは、
毒で殺すべき「敵となる己」とは、どんな自分なのか
ということです。
この点、本書の感想を述べている斑尾ツバメさんの記事が参考になります。記事では、次のようなことが書いてありました。
ここで言う「自分」とは、本書では「常識人間」と呼んでおり、本のサブタイトルにも「あなたは常識人間を捨てられるか」とあります。
僕はこの「常識人間」とは「過度な自己防衛本能」のことだと理解しています。死につながる恐れのある「危険」から自分自身を守るための生存本能
フジオの創作メモ『「自分の中に毒を持て」に学ぶリア充を爆発させる方法』
このように 、斑尾ツバメさんは殺すべき自分を「常識人間」と捉えています。
また、そんな常識人間の正体を「過度な防衛本能」と言及しています。
確かに、私はこの考えにすごく共感しました。
その一方で、次のような考えも浮かびました。
毒を持って殺す自分(常識人間)とは「煩悩」のことではないか
と。
防衛本能だけではなく、以下のような煩悩も含めて殺すべきと言っているように思えました。
- 金持ちになりたい
- モテたい
- 楽をしたい
- 名を残したい
- 役に立ちたい
- 息子、娘だけは幸せになってほしい
- 社会、他人に認めてほしい
- 他人をおとしめたい
岡本太郎は「ありとあらゆる煩悩的な自分を毒を以って殺せ」と言っているのではないでしょうか。
さらに、次のように付け加えるのではないかと想像します。
そういう煩悩は持ってもいいけれど、一度止まって考える。一度毒をもって殺して考える。
そうやって煩悩を殺すことで、自分の中の「常識人間」が死に、本当にやりたいことや、やるべきことが見えてくる。
このように思えてなりませんでした。
つまり、毒を吐く自分とは「抽象度の低い煩悩に囚われた自分」だと解釈します。
毒を以て毒を制すという言葉があります。この言葉に対して、岡本太郎ならこう言うのではないでしょうか。「毒を以て“自分”を制す」と。
考察2 「芸術は爆発だ」の真意とイメージの図解
「芸術は爆発だ」は岡本太郎の名言の一つです。1986年には「新語・流行語大賞」も受賞したほど、人々に影響を与えた言葉です。
「爆発」というと、ドカンと音が鳴り響いて、周囲のものを破壊するようなイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、岡本太郎の真意は違います。本書で次のように述べています。
私の言う「爆発」はまったく違う。音もしない。物も飛び散らない。
全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと。それが「爆発」だ。人生は本来、瞬間瞬間に、無償、無目的に爆発しつづけるべきだ。いのちの本当の在り方だ。
なるほど、「音もしない」「物も飛び散らない」静かな爆発ということですね。
ということは、「爆発」をして自分自身がなくなってしまうわけではないということです。
また、岡本太郎はこうも言っています。
子供の頃から私は自分の胸の奥深いところに神聖な火が燃えているという、動かし難い感覚を持っていた。それは誰にも冒させることのできない、絶対的な存在なのだ。
以上のようなことから、「芸術は爆発だ」の爆発をイメージ図にしてみました。
自分が爆発するのではなく、自分の中にある情熱の火が、無条件で外に飛び出るイメージです。
無理に自分を「爆発」させるのではなく、自分の「情熱の炎」を「解放」するイメージだと私は解釈しました。
考察3 世界に影響を与える人の必要条件。ただし絶対条件ではない
3つ目は次のような疑問を考えたいと思います。
なぜ岡本太郎は自分の内面の世界ばかり見ているのに、他人のニーズを考えたわけではないのに、人を惹きつける作品を生み出したのか?
この答えを本書から読みとると、次の2点が要因であると推測します。
- (1)自分に正直であり、心の情熱の炎を封印せずに爆発させた
- (2)自分の中の常識人間に毒を吐き、自分と戦い、挑戦し続けた
この2点があったからこそ、ユニークな作品や、抽象度の高い世界観、インパクトが強いメッセージを生み出せたのだと思います。
ただ、これらの要因は成功の「必要条件」であって「絶対条件」ではないはずです。
岡本太郎は、いわゆる「マーケットインではなくプロダクトアウト」で大成功した事例です。
マーケットインとは、「顧客(や市場)の意見・ニーズを基準につくる」というものです。
一方でプロダクトアウトとは、 「自分や組織がつくりたいもの、つくれるものを基準」にします。
参考:ferret「プロダクトアウト・マーケットインとは?誤用されがちな両者を解説」
岡本太郎が「プロダクトアウト」の発想で生み出した作品やメッセージは、日本のみならず、世界に影響を与えました。
一方で、「プロダクトアウト」で成功しなかった例もあります。作りたい作品を生み出したとしても、社会のニーズに合わず、注目を浴びなかった芸術家もいたはずです。
例えば、ピカソとゴッホが分かりやすいでしょう。
ピカソは最も儲かった画家である一方で、生前のゴッホはかなり貧乏で苦労したといいます。
参考:山口 揚平 (2013)「なぜゴッホは貧乏でピカソは金持ちだったのか?」ダイヤモンド社
このように、社会に迎合せず、自分の情熱のままに作品を生み出したとしても、社会や市場に受け入れられない例もあるでしょう。
つまり、岡本太郎が世界に影響を与えることができた以下の要因は「必要条件」であり、「絶対条件」とは言えないはずです。
- (1)自分に正直であり、心の情熱の炎を封印せずに爆発させた
- (2)自分の中の常識人間に毒を吐き、自分と戦い、挑戦し続けた
言い換えると、
世界に影響を与える人は、少なくとも上記の条件を満たしている。しかし、上記を満たしたからといって、上手くいくとは限らない。
ということだと考えます。
考察4 岡本太郎の意見は「生存者バイアス」がかかった意見なのか
考察3では、私は次のようなことを述べました。
世界に影響を与える人は、少なくとも以下の条件を満たしている。しかし、以下を満たしたからといって、上手くいくとは限らない。
- (1)自分に正直であり、心の情熱の炎を封印せずに爆発させた
- (2)自分の中の常識人間に毒を吐き、自分と戦い、挑戦し続けた
これに対して、岡本太郎が生きていれば、こんなことを言いそうです。
社会や世界に迎合せず、自分の中の情熱のまま進め。ただしとことん自分と対峙しろ。甘えるな。自分と戦い、自分を磨け。
社会にウケるかどうかは関係ない。自分を貫き通す、それが本当の満足だ。ウケなくてもいいじゃないか。
この言葉は本質そのものでしょう。
しかし、私達はこの言葉のまますぐに行動に移せるでしょうか。私は、すぐには難しいのではないかと思います。
また、岡本太郎の意見には「生存者バイアス」があるの推測します。
「生存者バイアス」とは、成功した人や、組織、その方法のみに注目し、失敗したものを見逃してしまうことを指します。
この「生存バイアス」を除いて考えることで、分かることがあります。
それは、やりたいことをしても食っていけなかった芸術家や、苦しい思いをしていた人達がいるというこのです。
岡本太郎は
それでもいい、食っていけなくても、命懸けでやることをの方が大事だし、生きがいがある。
と言うのかもしれません。
でも、
- 上手くいかなくてもやりたいことやってるからオッケー!
- やること自体に意味があるからとことん危険を冒そう!
上記のように、すぐに割り切れる人は多くないのではないでしょうか。
しかし、少しずつ危険を冒し、自分の中の常識人間を壊していくことに価値はあると思います。
極端でなく、小さなステップが良いでしょう。少しずつやってみることです。
例えば、
- やりたいと思っていたけれど躊躇していたことをやってみる
- いつも反論できずにいた人に対して、思いきり意見をぶつけてみる
- あえて反対されたことをやってみる
- 食えなくても挑戦したいことを始めてみる
などです。
一方で、
- いきなり会社をやめる
- 嫌いな人と誰でも絶縁する
- 相手が嫌がっているのにアタックしまくる
このような極端な行動は良くないでしょう。
岡本太郎氏の言葉は私達に強烈に響きます。
しかし、生存者バイアスを考えないで極端な行動をすることは、少し早計かもしれません。
もちろん、このような私の考えも「危険を冒したくない私の煩悩」と言えるでしょう。
ただ、岡本太郎の言葉を受けとめつつ、それを自分なりに解釈すること自体は、とても大事なことだと思います。
この解釈は、これを読んでいるあなた自身も行う必要があるでしょう。
なぜなら、自分の中の常識人間に毒を吐き、徹底的に戦って判断することを、岡本太郎自身が最も望んでいるはずですから。
「自分の中に毒を持て」の感想と考察のまとめ【岡本太郎】
この記事では、本書の概要と名言を紹介しつつ、私の感想と考察を書きました。
本書で岡本太郎が言いたいことを一言で表すとすれば、次のようになると思います。
自分の中に毒を持ち、命を危険にさらすことで、情熱が湧き上がる=爆発する。それを貫いてこそ人生だ
本書では、その人生の「仕事」「人間関係」「芸術」など、それぞれのテーマについて、岡本太郎自身が力強く語っています。
考察の章では、次のようなことを考えました。
- 考察1 毒はどこに吐くのか?常識人間を捨てるとは
- 考察2 「芸術は爆発だ」の真意とイメージの図解
- 考察3 世界に影響を与える人の必要条件。ただし絶対条件ではない
- 考察4 岡本太郎の意見は「生存者バイアス」がかかった意見なのか
本書を解釈する上で参考になれば幸いです。
参考文献、関連書籍
参考文献
ブチオの創作メモ『「自分の中に毒を持て」に学ぶ、リア充を爆発させる方法』
関連書籍
当記事で紹介した「自分の中に毒を持て」は三部作の一作目です。二作目と三作目も合わせてどうぞ。
岸見先生の著書もおすすめです。岡本太郎と通じる考えは「結果に責任を持った上で自由に選ぶこと」です。
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